SYNON 記事 社内サービス開発
Cloudflare OS / 社内サービス構築ガイド

話しかけるだけで、社内サービスができる
— 非エンジニアのための全工程

作成日: 2026-08-27 / シンオン株式会社

対象: つくる人(非エンジニア社員)/ 用意する人(情シス・エンジニア)/ 決める人(経営)

題材: 顧客問い合わせの受付台帳 / 日報の集計ダッシュボード

対になる資料: プランA(Codespaces)・プランB(ローカル・本命)— 最後に比較します

この資料の読み方

あなたの立場読むところ
決める人(経営・情シス)第 I 部(1〜4章)と 第 III 部(16〜21章)。所要 15 分
用意する人(エンジニア)第 I 部 → 第 II 部の Step 0・Step 1(6〜7章)→ 第 III 部。所要 40 分
つくる人(非エンジニア)第 II 部の Step 2 以降(8〜13章)だけで足ります。Step 0・Step 1 は自分ではやりません
前提の断り

Cloudflare OS は 2026 年 8 月に公開されたばかりのソフトウェアです。公式リポジトリには 「early-access software」と明記され、「2026 年 8 月リリース時点で v2 は非常に高機能だが、まだ粗い箇所が多い」とも書かれています。

この資料は一次情報(公式ブログ・GitHub リポジトリ・公式ドキュメント)に基づいていますが、 確認できなかった項目は 21 章に正直に列挙しています。そこを読まずに稟議へ回さないでください。

第 I 部 — 何を導入するのか決める人向け/所要 15 分

1結論

  1. Cloudflare OS は「社内の AI ワークスペース」です。チャットで頼むと、AI がその場で動くアプリ(Gadget)を書いて、そのまま社内で使える状態にします。書き出して別の場所へデプロイする工程がありません。
  2. 非エンジニアが触るのはブラウザだけです。ターミナル・GitHub・デプロイの概念は、つくる人の側に一切出てきません。
  3. エンジニアの仕事は「最初の設置」と「外部システムへの扉(Gatekeeper)づくり」だけです。一度置けば、アプリが 10 本になっても 100 本になっても設置作業は増えません。
  4. セキュリティの考え方が根本的に違います。エージェントもアプリも最初は何にもアクセスできない状態で生まれ、必要な権限だけを「型のついた鍵(binding)」として受け取ります。API キーそのものはAI にも生成コードにも渡りません。
  5. 既存のプランA/プランB を置き換えるものではありません。層が違います。使い分けの判断基準は 16〜18 章にまとめました。
要するに

プランA/B が「部門で長く使う業務システムを、レビューを通して 1 本ずつ作る」仕組みなのに対し、 Cloudflare OS は「一人ひとりが自分の道具を、その日のうちに何本でも作る」仕組みです。

前者は減らせません。後者は今まで存在しませんでした。

30分
1 本目が動くまで
(非エンジニア・目標値)
0分
利用者の端末
セットアップ
$5/月
インフラ増分
+ AI 推論の実費
4,000本
Cloudflare 社内の実績
(30日・大半が非技術部門)

2Cloudflare OS とは何か

Cloudflare が自社の社内利用のために作り、2026 年 8 月に Apache-2.0 でオープンソース公開したエージェント・ワークスペースです。ソフトウェア自体の利用料はかかりません。

2-1. 3 つの構成要素

1 エージェント・ワークスペース(ブラウザ画面) チャットで頼む。AI がコードを書いて、その場で動かす。ドキュメント・スライドもここで作る 技術用語は出てこない。インストールするものもない 2 アプリ基盤 — Gadget 生成物は試作品ではなく「フルスタックのアプリ」。 クライアントコード + サーバコード + API + 永続データ を最初から持つ 3 セキュリティ・統制 — Gatekeeper + 権限モデル 外部システムへの唯一の扉。認証情報は AI にも生成コードにも渡さない 「誰が何を読んだか」を記録し、その記録が成果物について回る
図 1 — Cloudflare OS は「画面」「アプリ基盤」「統制」の 3 層でできている

2-2. 動いている場所

部品実体意味
ワークスペースCloudflare Workers + Durable Objects自社の Cloudflare アカウントの中。SaaS に預けるのではない
Gadget のサーバ側Dynamic Worker(外向き通信は既定で無効)アプリごとに独立した実行環境。専用サーバは不要
Gadget のクライアント側ブラウザのサンドボックスフレーム画面の描画
Gadget のデータDurable Object Facet + SQLiteアプリごとに独立したデータベース
画面とサーバの通信Cap'n Web(Cloudflare 製の OSS RPC)サーバの関数を、画面から普通の JS 関数のように呼べる
AI の呼び出しCloudflare AI Gateway 経由モデルの選択・上限・費用の按分をここで一括管理
入口の認証Cloudflare Access誰が Cloudflare OS に入れるかを制御
ここが重要

つくられたアプリは「プロトタイプ」ではありません。公式ブログの表現をそのまま引くと、 「別のどこかにエクスポートしてデプロイし直す必要のある試作品ではない。それぞれが、クライアントコード・サーバコード・API・永続状態を持ったフルスタックのアプリケーションである」。

2-3. Cloudflare 自身での実績

この数字は「1 部門に 1 本の業務システム」ではなく、「一人が週に何本も、自分の困りごとに合わせて道具を作る」使われ方を示しています。

数値の出典

この 3 つの数値は InfoQ が引用した Cloudflare CIO の発言です。公式ブログ側に具体的な数値はなく、「あらゆる部門の数千人が毎日使っている」という定性的な記述にとどまります。

3なぜ非エンジニアでも回るのか — 3 つの理由

理由 1 — 「デプロイ」という工程が存在しない

プランA/B では、書いたコードを GitHub に push し、Actions が動き、Cloudflare に配信され、そこで初めて他人が使えるようになります。この間に失敗ポイントが 3 つあります。

【プランA/プランB】 7 工程・失敗ポイント 3 か所 書く 保存 push CI デプロイ URL 使える 失敗する 失敗する 失敗する 【Cloudflare OS】 3 工程・失敗ポイント 0 頼む もう動いている 共有する 相手も使える
図 2 — 非エンジニアが詰まるのは、たいてい真ん中の 3 つ。それが丸ごと無い

理由 2 — 事故の上限が、あらかじめ天井で決まっている

非エンジニアの開発でいちばん怖いのは「うっかり社外に出す」「うっかり全部消す」です。Cloudflare OS はこれを運用ルールではなく、仕組みで止めています。

理由 3 — 直したいときも、日本語で頼むだけ

AI の変更は、いきなり本体に反映されるのではなく、チャット単位の「変更提案」として扱われます。ユーザーはそれを受け入れる(accept)/取り消す(revert)を選べます。確定したコードは mainline と呼ばれます。

つまり

「頼む → 見る → 気に入らなければ取り消す」が、Git を知らなくても回ります。

4費用

Cloudflare OS そのものは Apache-2.0 の OSS で無料です。かかるのは土台の Cloudflare 利用料と AI の推論費用だけです。

項目金額備考
Cloudflare OS ライセンス$0Apache-2.0
Workers Paid$5/月(アカウント全体で 1 本)月 1,000 万リクエスト・3,000 万 CPU ミリ秒を含む。超過は $0.30/百万req、$0.02/百万CPUms
Durable ObjectsPaid に月 100 万リクエスト込み
超過 $0.15/百万
SQLite ストレージは 5GB-月まで無料、超過 $0.20/GB-月
AI Gateway分析・キャッシュ・レート制限・予算上限(Spend Limits)に追加料金の記載なし永続ログ保存は Paid でゲートウェイあたり 1,000 万件
AI 推論(モデル利用料)実費Cloudflare 経由でもトークン単価にマークアップなし。ダッシュボードでクレジット購入時のみ 5% 手数料。自前 API キー(BYOK)持ち込みも可
Cloudflare Access50 ユーザーまで無料
有料は $7/ユーザー/月
金額は Cloudflare 公式ブログ(Zero Trust For Everyone)記載。現行の価格ページで再確認すること
Synon での実額

新たに増えるのは、実質「Workers Paid $5/月 + AI の実費」だけです。 プランB がすでに Workers Paid $5/月 を前提にしているので、インフラ費の増分はほぼゼロになります。

費用が読めない唯一の箇所 — AI の推論費用

詳しくは 10 章

どのモデルが動き、どこでトークンが減るのかは 10 章で扱います。

ここだけは使い方次第です。AI Gateway の予算上限(Spend Limits)を必ず先に設定してください。

ここは運用で決めること

「毎朝の未読メール要約に最上位モデルは要らない」というのが Cloudflare 自身の例示です。 用途ごとにモデルを選ばせるのではなく、管理者が選択肢を絞るのが正解です。

第 II 部 — 作業工程(本編)Step 0 〜 Step 7 / つくる人が読むのは Step 2 以降

5全体像 — 誰が、いつ、何をするか

一度きり ─ エンジニア(半日) 0 設置する Cloudflare アカウントへ Cloudflare OS をデプロイ 1 入口と上限を決める Access で入場者 / モデル選択 / 予算上限 / 見た目 毎回 ─ つくる人(ブラウザだけ。ターミナルも GitHub も出てこない) 2 入る 社内 URL を開く 会社のメールでログイン 3 頼む 「◯◯を作って」と 日本語で書く 4 直す 動かして確かめる 気に入らなければ取り消す 5 つなぐ 社内データ・外部サービス (Gatekeeper 経由) 6 配る ① 直接共有 … 同じ 1 個を一緒に使う(データも会話履歴も渡る) ② Blueprint … 作り方だけ渡して各自が複製 ※ どちらを選ぶかで渡るものが違う。13 章で図解 ときどき ─ エンジニア/情シス 7 面倒をみる 監査ログ / 予算の見直し / 版の更新 新しい Gatekeeper を書く Chatwork・freee など、同梱されていない日本のサービス Step 2 から Step 6 までに、ターミナル・GitHub・デプロイは一度も出てきません。 アプリが 10 本になっても 100 本になっても、Step 0・Step 1 の作業は増えません。
図 3 — 全体像。エンジニアの作業は最初と、ときどきだけ

6Step 0 — 設置するエンジニア・一度だけ

6-1. 3 つの設置方法から選ぶ

方式何をするか向いている場面Synon での評価
A. オンライン設置https://os.cloudflare.app/deploy を開いてクリックするだけまず触ってみるお試しに最適。ローカルビルド不要。サインイン方式と管理者メールを自動設定。workers.dev のアドレスで動く
B. starter リポジトリcloudflare-os-starter を clone して設定・デプロイ本番運用本命。独自ドメイン・Access 連携・独自 Gatekeeper・ログ設定ができる
C. 自社インフラで workerdCloudflare を介さず自前で動かす完全オンプレ要件まだ使えない。公式に「COMING SOON」表記。手順もツールも未整備
推奨

1 週目は方式 A で触って、2 週目に方式 B へ移す。方式 A は「ブランディングだけ変えたい人向け」と公式が位置づけており、独自ドメイン・独自 Gatekeeper が必要になった時点で方式 B が要ります。

方式 A から方式 B への「移行」ではなく、方式 B で建て直す前提で計画してください。

6-2. 方式 B の手順(公式 starter README より)

# 1) 取得と認証
git clone https://github.com/cloudflare/cloudflare-os-starter
cd cloudflare-os-starter
git submodule update --init          # 本体を pinned release として取り込む
pnpm install
pnpm --dir cloudflare-os install
pnpm exec wrangler login

# 2) 設定ファイルを埋める(deployment.jsonc)
#    account ID / Worker 名 / ホスト名 / Access audience / 管理者メール

# 3) 検証してデプロイ
pnpm check
pnpm deploy

# 4) /admin を開いて サイト名・ロゴ・アクセントカラー を設定
#    (ブランディングの変更に再デプロイは不要)

前提: Node.js 24 / pnpm 11 相当

6-3. Cloudflare アカウント側に必要なもの

starter の README に明記されている必要サービス:

稟議の前に潰すこと

「Workers Paid が必須」と明記した一次情報は見つかりませんでした。 ただし Dynamic Worker Loaders と Browser Rendering は Free 枠での利用に制約があり、かつプランB の検討で確定している通り、Workers Free は CPU 10ms 制限D1 10 個上限で社内利用に耐えません。

Workers Paid $5/月 を前提に稟議を通してください。Free 前提で通すと後で必ず詰みます。

6-4. Access の設定(方式 B のとき)

  1. Cloudflare Zero Trust で、Cloudflare OS のホスト名に対して「self-hosted」の Access アプリケーションを作る
  2. そのアプリの Application Audience (AUD) タグをコピー
  3. deployment.jsonc の Access audience 欄に貼る
  4. 誰が入れるか(社内ドメインのメール、IdP のグループ等)を Access のポリシーで決める
これが唯一の入口

Cloudflare OS 自体にユーザー管理画面を持たせるのではなく、Access のポリシー=入場者名簿になります。既存の Zero Trust 運用にそのまま乗ります。

7Step 1 — 入口と上限を決めるエンジニア・一度だけ

デプロイ直後にやることは 4 つだけです。

#やること場所なぜ必要か
1管理者メールを登録deployment.jsonc/admin に入れる人を決める
2見た目を整える/admin(再デプロイ不要)社内サービス感を出す。別サービスに見えると使われない
3使えるモデルを絞るAI Gateway高額モデルの野放しを防ぐ
4予算上限を入れるAI Gateway → Spend Limitsこれを飛ばすと請求で事故ります

予算上限の推奨初期値(Synon 想定・目安)

単位上限到達時の挙動
ワークスペース全体月 $150ブロック
ユーザー 1 人あたり月 $30安価なフォールバックモデルへ切り替え
この金額に根拠はありません

1 か月動かして実測してから決め直す前提の初期値です。「上限なしで始める」ことだけは避けてください。

8Step 2 — 入るつくる人

  ブラウザで社内 URL を開く
        │
        ▼
  Cloudflare Access のログイン画面(会社のメール/いつもの SSO)
        │
        ▼
  Cloudflare OS のホーム画面

インストールするものはありません。Mac でも Windows でも、ブラウザだけで同じです。

9Step 3 — 頼むつくる人

チャット欄に、日本語で、業務のことばで書きます。技術の言葉は要りません。

9-1. 良い頼み方・悪い頼み方

△ 惜しい「問い合わせ管理のアプリを作って」
◎ 良い「お客様からの問い合わせを記録する画面を作ってください。入力するのは、日付・会社名・担当者名・内容・対応状況(未対応/対応中/完了)の 5 つです。一覧では対応状況で絞り込めて、未対応が上に来るようにしてください。」

違いは 3 点だけです。

  1. 入力する項目を全部書く
  2. 一覧でどう見たいかを書く
  3. 選択肢のあるものは、選択肢を全部書く(「未対応/対応中/完了」)

9-2. 題材 1 — 顧客問い合わせの受付台帳

お客様からの問い合わせを記録する社内用の台帳を作ってください。

【登録する項目】
- 受付日(既定は今日)
- 会社名
- 先方の担当者名
- 問い合わせ内容(長文)
- 種別(見積依頼/技術質問/不具合/その他)
- 対応状況(未対応/対応中/完了)
- 社内の担当者名

【画面】
- 上に新規登録フォーム、下に一覧
- 一覧は対応状況と種別で絞り込める
- 未対応を上に、受付日の新しい順
- 未対応が3日以上たっているものは行を赤くする

【その他】
- 一覧を CSV で書き出すボタンをつけてください

9-3. 題材 2 — 日報の集計ダッシュボード

社員が毎日の作業時間を入力し、月次で集計するダッシュボードを作ってください。

【入力】
- 日付/案件名/作業内容/作業時間(0.5時間刻み)
- 入力は1日ぶんをまとめて、行を足せる形にしてください

【集計】
- 今月の案件別の合計時間を棒グラフで
- 今月の自分の合計時間を大きく表示
- 案件別・週別の表

【注意】
- 他の人の入力は見えないようにしてください(自分のぶんだけ)
最初のプロンプトに書く

「他の人の入力は見えないように」のような要件も、日本語で書いておけば実装されます。 あとから「実は見えていた」と気づく方がはるかに高くつきます。

9-4. 頼んだあと、裏で起きていること

あなたのプロンプト(日本語) エージェントが 2 種類のコードを書く クライアントコード 画面の見た目 サーバコード 保存・集計 Cap'n Web RPC ブラウザのサンドボックス 画面はここで動く SQLite(このアプリ専用) 隣のアプリからは見えない 実行環境 サーバコードは Dynamic Worker の中。 外向きのネットワーク通信は 既定で無効になっています。 データは Durable Object Facet。 アプリごとに完全に独立。 = もう動いています 「ビルド」「デプロイ」「公開」というボタンを押す工程はありません。
図 4 — Gadget の中身。試作品ではなく、最初からフルスタックのアプリ

10どのモデルが動き、トークンはどう減るのか全員

「頼むと AI が作ってくれる」の裏側で、誰のどのモデルが呼ばれ、費用が誰に立つのかです。Cloudflare OS はここを 2 段構えにしていて、理解しておかないと「使えない」「請求が読めない」の両方が起きます。

10-1. AI は既定で無効。誰かが費用を持つと決めるまで動かない

公式 starter の README にこう書かれています。

原文

AI is disabled by default. The application can deploy without an AI Gateway or token.

設置しただけでは、チャットで頼んでも何も生成されません。Step 1(7 章)でここを決めます。設定は deployment.jsoncaiGateway で、4 つのモードがあります。

モード設定どうなるか
モデルなしaiGateway.enabled: falseシークレット不要でデプロイできる。会社負担のモデルは提供されない
Workers AI を直接providers: ["cloudflare"]workersAi.mode: "direct"Workers AI の REST を直接呼ぶ。AI Gateway のログは残らない
Workers AI を Gateway 経由同上 + workersAi.mode: "gateway"可観測性がつく。実質こちらを選ぶ
外部プロバイダprovidersanthropic / openai / google を追加AI Gateway 経由で公開。課金設定(Unified Billing か BYOK)が要る

必要なシークレットは CF_AI_GATEWAY_API_TOKEN の 1 本。API トークンの権限は AI Gateway – Read / AI Gateway – Edit / Workers AI – Read(アカウント権限)。

pnpm exec wrangler secret put CF_AI_GATEWAY_API_TOKEN --name your-workshop-worker
モデル名の公式カタログはありません

リポジトリの型定義でも model は自由文字列で、プロバイダ名(cloudflare / openai / anthropic / google / ollama)だけが列挙されています。「どのモデルが使えるか」は各社のカタログ次第で、Cloudflare OS 側が絞っているわけではありません。

10-2. モデルは「会社が土台を絞り、本人が選ぶ」

【管理者】 deployment.jsonc の providers
   = 会社が費用を持つモデル群(deployment-funded model catalog)
                    │  この範囲の中で
                    ▼
【つくる人】 Connections パネル
   ・自分のモデル(BYOK)を追加できる
   ・Gadget の aiModel バインディングで、どのモデルを使うか選ぶ
   ・agentSpawner バインディングでも「どのモデルで動かすか」を選ぶ

/admin 画面ではモデルを選べません。管理者の担当は deployment.jsonc、つくる人の担当は Connections パネルです。

コード生成に使われるモデルも固定ではありません。公式ドキュメントにこうあります。

原文(docs/sharing.md)

When a collaborator engages AI chat, the model is resolved from their own account (BYOK billing goes to whoever prompted the AI, not the gadget owner).

つまり

AI を叩いた本人に費用が立ちます。Gadget を共有しても、共有相手の利用分が作成者に請求されることはありません。「便利なアプリを作ったら、自分の請求が跳ねた」は起きない設計です。

10-3. 1 リクエストごとに、誰の財布から出るかが判定される

ENABLE_CLOUDFLARE_LIMITS を有効にすると、AI を呼ぶ直前に毎回この判定が走ります。

AI に頼む(1 リクエスト) 自分の Cloudflare アカウントを接続していて 残高が $2 以上ある? はい 本人のアカウント経由 本人のクレジットで課金 無料枠は減らない いいえ 今日の無料枠(既定 100 回/UTC 日)は、まだ残っている? はい 会社の AI Gateway 経由 デプロイ側(会社)が費用を持つ 無料枠が 1 回減る いいえ ブロック 未接続 → アカウント接続を促す 接続済み・残高不足 → 入金を促す 既定値: DAILY_LLM_CALL_LIMIT = 100 / MINIMUM_CLOUDFLARE_BALANCE = $2 / 残高表示のキャッシュ 5 分。カウンタは UTC の日付でリセット。
図 5 — 課金の判定は 1 リクエストごと。無料枠は「回数」で数える
変数既定値意味
DAILY_LLM_CALL_LIMIT1001 ユーザーあたりの 1 日の無料 LLM 呼び出し回数
MINIMUM_CLOUDFLARE_BALANCE$2本人アカウント経由に切り替わる最低残高
残高のキャッシュ5 分表示される残高は最大 5 分古い
日本では、リセットは毎朝 9 時です

カウンタは各ユーザーの Durable Object に保存され、UTC の日付でリセットされます(UTC 0 時 = JST 9 時)。「夕方に使い切ったら、翌朝 9 時まで戻らない」という体感になります。社内案内に必ず書いてください。

ここが一番の落とし穴

無料枠が数えているのは 「LLM の呼び出し回数」であって、トークン数ではありません。短い質問も、大きなアプリの生成も、同じ 1 回として減ります。

一方でお金はトークン単価で決まります。つまり「回数の天井」と「金額の天井」は別物で、両方を見る必要があります。

10-4. トークンはどこで減るのか

作るとき(1 回きり) 大きい AI チャットで頼む/直す クライアントとサーバのコードを丸ごと書く。直しの往復も 1 回ずつ数える 使うとき(毎回) 設計次第 Gadget の aiModel 呼び出し 要約・分類・文章生成を組み込むと、同僚が使うたびに減る 大きい agentSpawner が起動したエージェント Gadget が自律的にエージェントを走らせる構成。安易に入れない ゼロ Gatekeeper 経由の外部データ取得 ただの API 呼び出し。LLM を通らない ゼロ Gadget の画面操作・保存・集計 — SQLite への読み書き。AI は関わらない = AI を実行時に使わない設計にすれば、トークンを使うのは「作った日と直した日」だけになる
図 6 — 4 か所のうち、下 2 つはトークンを使わない。設計で効かせられる
設計で効かせられます

顧客問い合わせの受付台帳や日報の集計は、AI を実行時に使わない設計にできます。その場合、トークンを消費するのは作った日と、直した日だけです。以後はゼロ。

逆に「問い合わせ内容を AI に要約させる」を入れた瞬間、入力のたびに課金が発生します。便利さと引き換えなので、入れるかどうかは意識して決めてください。

10-5. 何がいくらか

Workers AI(Cloudflare 自前のモデル)

モデル入力(100 万トークン)出力(100 万トークン)
Llama 3.2 1B$0.027$0.201
Mistral 7B$0.110$0.190
Llama 3.1 70B$0.293$2.253

外部プロバイダ(OpenAI / Anthropic / Google など)

正直に書きます

1 つの Gadget を作るのに何トークンかかるか、という公式の数値はありません。モデル・アプリの大きさ・直しの回数で桁が変わります。

3 週目の実測(20 章)で、1 人 1 本あたりの実額を出してから予算を決めてください。この資料に書いた「月 $150」は、根拠のない置きの数字です。

10-6. 見えるもの、止められるもの

AI Gateway のダッシュボードで見えるもの

リクエスト数 / トークン使用量コスト / エラー数 / キャッシュ率。ログにはプロンプト本文とモデルの応答も残ります

利点であり、同時にリスク

「社外秘をチャットに貼った」がログに残ります。ログの閲覧権限を、設置と同時に決めてください。

コストの読み方の注意

止める仕組み — Spend Limits

誰がいくら使ったか(Identity-aware AI Gateway)

ログの保持

プラン保持件数
Workers Free全ゲートウェイ合計で 10 万件
Workers Paidゲートウェイあたり 1,000 万件

保持「期間」(何日で消えるか)は公式ドキュメントに記載がありません。

10-7. Synon での運用方針(提案)

推奨

会社が費用を持ち、上限で守る。理由は 1 つ、非エンジニアに自分の Cloudflare アカウントの残高を管理させるのは無理だからです。BYOK 方式は費用の帰属が明快ですが、「残高が切れたので使えません」を各自に自己解決させることになり、問い合わせが情シスに来ます。

#決めること推奨
1aiGateway.providersまず cloudflare(Workers AI)+ 外部 1 社に絞る。3 社全部開けない
2workersAi.modegatewayログが残らない direct は選ばない
3ENABLE_CLOUDFLARE_LIMITS有効。無料枠 100 回/日が「1 人あたりの回数の天井」になる
4DAILY_LLM_CALL_LIMIT既定 100 のまま開始 → 3 週目の実測で調整
5Spend Limits金額の天井を別に張る。回数の天井だけでは金額を守れない
6ログの閲覧権限設置と同時に決める。プロンプト本文が残るため
7社内案内無料枠のリセットは毎朝 9 時」「回数で数える」の 2 点を明記

10-8. この章の未確認事項

未確認なぜ困るか
Cloudflare OS が AI Gateway に送るメタデータに、ユーザー識別子が含まれるか含まれないとユーザー別の Spend Limit が張れない(=1 人の暴走を金額で止められない)
Gadget 1 本あたりの実トークン量予算の根拠が作れない。3 週目に実測
DAILY_LLM_CALL_LIMIT の実効性環境変数なので変更できるはずだが、実機で確認
プロンプト・応答ログの保持期間監査・情報管理の設計ができない

11Step 4 — 直すつくる人

11-1. 変更は「提案」として届く

  mainline(確定しているコード)
        │
        ├── チャットA の変更提案 ──→ 受け入れる → mainline に入る
        │                        └→ 取り消す   → 無かったことになる
        │
        └── チャットB の変更提案 ──→ …

気に入らなければ取り消せます。「壊してしまったらどうしよう」は要りません。

11-2. 直し方のコツ

状況言い方
見た目を変えたい「一覧の文字が小さいので、もう少し大きくしてください」
項目を足したい「『次回連絡予定日』の欄を、対応状況の下に足してください」
動きがおかしい「◯◯を押したら△△になるはずが、□□になります」と、期待 → 実際の順で書く
元に戻したいそのチャットの変更を取り消す(revert)
一度に 1 つだけ頼む

5 つまとめて頼むと、どれが原因で崩れたか分からなくなります。1 つ直す → 動かす → 次。これが最短です。

11-3. コードは見なくていい

コードエディタは存在し、権限のある人(build 役割)は開けます。ただし非エンジニアが開く必要はありません。開かない前提で運用してください。

12Step 5 — つなぐつくる人+エンジニア

自分で入力するだけのアプリなら Step 5 は飛ばせます。GitHub や Google Drive、社内 DB のデータを使いたくなったときにここへ来ます。

12-1. Gatekeeper — 外部システムへの「扉」

Gadget AI が書いた あなたのアプリ 外向き通信は 既定で無効 Gatekeeper ・認証情報を保持する ・アクセス範囲を限定する ・項目(カラム)をマスクする ・レート制限をかける ・破壊的操作に人間の承認を要求 ・全操作を監査ログに記録 外部サービス GitHub / Google Slack / Notion Confluence など 型のついた バインディング API 必要なデータだけ API キーはここから外に出ない AI にも、生成されたコードにも渡りません
図 7 — Gatekeeper。「鍵を渡す」のではなく「代わりに扉を開ける」

12-2. 標準で同梱されている Gatekeeper

GitHub / Google / Cloudflare / Supabase / Notion / Confluence / Email(Workers 経由)/ Home Assistant / Slack / Spotify / ZoomInfo

多くは接続前に設定(OAuth の取得など)が必要です。各パッケージに手順が同梱されています。

日本のサービスは入っていない

Chatwork・freee・kintone などは同梱されていません。必要なら自作になります。

12-3. 新しい Gatekeeper を作るのは誰か

リポジトリには AI エージェント用の write-gatekeeper スキルが同梱されており、AI に書かせる前提の設計です。ただし手順の Phase 1 には「オペレーターの承認を得るまで先に進まないこと」という明示的な関門があり、TypeScript の型設計・OAuth 設計・Workers/Durable Objects の理解が前提になっています。

結論

Gatekeeper づくりはエンジニアの仕事です。「非エンジニアでも作れる」という記述は一次情報にありません。 Synon では Chatwork Gatekeeper を最初の 1 本として、エンジニアが書くのが現実的です。

12-4. つくる人から見た手順

  1. 画面の Connections パネルを開く
  2. 使いたい Gatekeeper(例: Google)を選ぶ
  3. 触ってよい範囲(このスプレッドシートだけ、など)を選ぶ
  4. チャットに戻って「接続した◯◯のデータを使って△△して」と頼む

API キーを自分でコピー&ペーストする場面はありません。あったら、それは設計ミスです。

13Step 6 — 配るつくる人

配り方は 2 種類あり、渡るものが違います。ここを間違えると事故ります。

① 直接共有(Collaborators) 「同じ 1 個」を一緒に使う 相手に渡るもの: コード渡る 入力済みデータ渡る AI との会話履歴渡る 接続・認証情報渡る 役割は 2 つ: build(編集もできる)/ use(使うだけ) 向くもの: 部内で 1 つの台帳を共同利用する (例:顧客問い合わせの受付台帳) ② ひな型共有(Blueprint) 「作り方」を渡して各自が複製 相手に渡るもの: コード渡る 入力済みデータ渡らない AI との会話履歴渡らない 接続・認証情報渡らない 各自のコピーが、自分のデータ・接続・履歴をゼロから持つ 向くもの: 「日報アプリ」を全社に配る (各自が自分のものを持つ)
図 8 — 配り方は 2 つ。直接共有は「入力済みデータと会話履歴ごと」渡るのが最大の注意点

13-1. 直接共有の手順

「Share」モーダルで相手のユーザー名かメールを入れ、build か use を選ぶだけです。 共有リンクは #share=<鍵> の形で、128bit の秘密がリンク側にあり、サーバには HMAC-SHA-256 のハッシュしか保存されません(=サーバ側から生の鍵は復元できない)。

リンクの取り扱い

共有リンクを渡すことは、鍵そのものを配るのと同じです。Chatwork の全体ルームに貼らないでください。

13-2. Blueprint(ひな型)の手順

  1. Gadget エディタのヘッダーの 「Blueprint」ボタンを押す
  2. タイトル・説明・スクリーンショットを入れて公開する
  3. リンク(/blueprint/<id>)を配る。または 「Explore」/explore)に並ぶ
  4. 相手は 「Create Gadget」を押すと、自分専用のコピーができる

渡ったコピーには、あなたのデータも、AI との会話も、接続先も入っていません。相手は自分で Connections パネルからつなぎ直します。

13-3. 知っておくべき制限

配ったあとの一斉修正はできない

Blueprint を直しても、すでに配ったコピーは自動更新されません。 公式ドキュメントに「blueprint から既存インスタンスへの自動更新の仕組みはない」と明記されています。

「みんなが同じものを使い続ける必要があるもの」は、Blueprint ではなく直接共有にしてください。

13-4. 「Doc」「Slides」も実は Gadget

+ メニューの「New Doc」「New Slides」は特別な機能ではなく、管理者が昇格させた Blueprint(Formats)です。

Synon での応用

Synon の書式に合わせた「新規 見積書」「新規 議事録」を、+ メニューに置けます。/admin の「Formats」パネルで設定します。

14Step 7 — 面倒をみるエンジニア/情シス

頻度やること
毎月AI Gateway のダッシュボードで誰がいくら使ったかを確認し、予算を調整
毎月Access の入場者名簿を棚卸し(退職者を落とす)
随時Gatekeeper の監査ログを確認
随時破壊的操作の承認キューを処理
リリース時上流の更新を取り込む(アップグレード用チェックリストに従う

14-1. 版の更新は「勝手に上がらない」

starter は本体を git submodule として特定リリースにピン留めします。公式にも 「上流リリースをピン留めし、変更をレビューし、本番アップグレードのたびに信頼境界を検証すること」と書かれています。自動更新しない設計です。早期アクセス版として正しい挙動です。

14-2. 事故ったときの戻し方

第 III 部 — 既存の社内共有プロセスとの比較プランA(Codespaces)/ プランB(ローカル・本命)と、どう使い分けるか

15その前に — 権限モデルだけは理解しておく

比較の前提として、Cloudflare OS がなぜ非エンジニアに開放できるのかの核心を 1 つだけ。

15-1. アクセス権ゼロから始まる

  エージェント/Gadget が生まれた瞬間
        │  持っている権限: 【なし】
        │  外向きネットワーク: 【無効】
        ▼
  必要な権限だけを「型のついたバインディング」として受け取る

      const issues = await env.PROJECT.listIssues({ state: "open" });
                           ↑
                    これは「権限そのもの」。API キーではない。
                    キーは Gatekeeper の中から出ない

15-2. 「読んだこと」に権限がついて回る

Cloudflare OS の最も特徴的な仕組みです。

エージェントが 機微データを読む 「これを読んだ」という 観測記録が貼り付く エージェントにも、成果物にも 以後、その記録がポリシーの引き金になる その成果物を他人が見ようとすると、Gatekeeper が「その人に権限があるか」を確認する 新しい共同編集者を招こうとすると、制限がかかりうる 他のエージェントに仕事を渡す/外部へリクエストを出す、も同様に制限されうる プランA/B にはこの機能がありません。ここが最大の差です。
図 9 — 「権限のある人が読んだデータが、権限のない人に転送される」事故を、仕組みで止める

AI 業務利用で最も起きやすい事故を、運用ルールではなく仕組みで止めています。

16プランA/プランB とは、そもそも層が違う

16-1. 3 つの方式の位置づけ

レビューあり・長期運用 レビューなし・即時 使い捨て 作り込み プランA Codespaces 業務システムを 1 本ずつ作る プランB ★本命 ローカル エンジニアの PR マージ = 本番公開 Cloudflare OS 一人が自分の道具を何本も作る 共有した瞬間に配布完了。関門はない 1 本目が動くまで 10〜30 分
図 10 — 重なっていない。だから置き換えではなく、併存する

16-2. 決定的な違いは「関門」の有無

プランA/B の設計の中心には、「本番公開の承認 = エンジニアが PR をマージする行為」という一点があります。何が本番に出るかを、必ず人間が 1 回見ます。

Cloudflare OS には、これに相当する関門がありません。共有ボタンを押した瞬間に配布が完了します。

これは欠陥ではなく、狙いです

4,000 本のツールを 30 日で作るのに、1 本ずつレビューはできません。ただし 「レビューされていないものが社内で使われる」という前提を、経営として受け入れるかどうかの判断が要ります。

受け入れ方は 1 つです。「レビューされていなくても事故らない範囲」= 壊れても業務が止まらず、機微データを持たず、社外に出ないものに用途を限定すること。それが 18 章の判断フローです。

16-3. プランB の宿題が 1 つ消える

プランB の資料で「技術で解けない宿題」として残していた項目があります。

プランB の残課題(原文)

退職者の Mac にソースの複製が残る。端末返却・初期化を退職手続きに紐づけること。

Cloudflare OS では発生しない

コードもデータも、すべて Cloudflare アカウントの中にあります。Access の名簿からその人を外せば、その瞬間に何も見えなくなります。利用者の端末には何も残りません。

同様に、プランB で必要だった以下もすべて不要になります。

16-4. 一方で、増える宿題

宿題中身
早期アクセス版である公式に「early-access software」。README に「現時点で外部からのコントリビュートは求めていない」「十数行を超える PR は控えてほしい」と明記。つまり困っても自分で直して本家に入れられない
Gatekeeper の自作Chatwork・freee・kintone など日本のサービスは同梱されていない。全部エンジニアが書く
誤共有直接共有は入力済みデータと AI 会話履歴ごと渡る。リンクの扱いを教育する必要がある
一斉更新できないBlueprint で配ったあと、全員分をまとめて直せない
Access シート50 ユーザーまで無料。超えると $7/ユーザー/月。Synon 規模では当面問題なし
持ち出しにくいGadget は Cap'n Web / Durable Object Facet 前提。普通の Workers プロジェクトとして外へ出すのは容易ではない

17比較一覧表

17-1. つくる人から見た比較

観点プランA(Codespaces)プランB(ローカル・本命)Cloudflare OS
使う道具ブラウザ(Codespace)Claude Code(Mac)ブラウザのみ
端末セットアップゼロエンジニアが 30 分/人ゼロ
GitHub アカウント必要不要(Deploy key)不要
ターミナルを見るか見る見る見ない
仕様書は要るか必要(/service-spec必要(/service-spec不要(チャットが仕様)
最初の 1 本ができるまで半日〜1 日半日〜1 日10〜30 分
直し方Claude Code に依頼 → 保存 → 配信同左チャットで依頼 → 受け入れ/取り消し
壊したときの戻し方git で戻すgit で戻すチャットの変更を取り消す
作業が消えるリスク低(クラウド)(三重の保存で対処)なし(サーバ側)
同時に持てる本数1 人 1〜2 本が現実的1 人 1〜2 本が現実的何本でも

17-2. 出す側・守る側から見た比較

観点プランAプランBCloudflare OS
本番公開の関門エンジニアの PR マージエンジニアの PR マージなし(共有=即配布)
変更の差分レビューできる(Git diff)できる(Git diff)実質できない
コードの保管場所GitHubGitHub + 利用者の MacCloudflare のみ
退職者に残るものなしソースの複製が残るなし
権限の既定値開発者が書いた通り開発者が書いた通りゼロ権限+外向き通信オフ
認証情報の置き場所GitHub Actions SecretsGitHub Actions SecretsGatekeeper の中(AI にもコードにも渡らない)
「読んだデータ」の追跡なしなし観測ログが成果物に追従
監査ログActions のログActions のログGatekeeper が全操作を記録
破壊的操作の承認仕組みなし仕組みなしGatekeeper で人間承認を要求できる
AI 費用の可視化個人の Claude シート単位同左ユーザー別・チーム別に按分+上限
社外公開できるかできるできるできない(Access の内側)
独自ドメインできるできるできる(starter 方式のみ)
技術構成の自由度高い(D1・R2・任意の API)高い低い(Gadget の枠内)
他所への持ち出し容易(普通の Workers プロジェクト)容易難しい
成熟度Workers 単体で本番実績同左early-access(2026-08 公開)

17-3. お金と手間

観点プランAプランBCloudflare OS
インフラ月額Cloudflare $5 + GitHub Team $4×人数 + Codespaces $25〜47$13(Cloudflare $5 + GitHub Team $8)$5(Workers Paid)+ AI 推論の実費
Synon 実額の目安$50〜80/月$13/月$5/月 + AI 実費(Access は 50 名まで無料)
AI の費用Claude シート(1 人ずつ)Claude シート(1 人ずつ)従量。上限設定は必須
初期構築(エンジニア)半日半日 + 30 分×人数半日。人数が増えても増えない
運用(エンジニア)公開ごとに PR 2 分公開ごとに PR 2 分月次の予算・名簿確認。Gatekeeper 自作は都度
撤退のしやすさ容易(コードは Git)容易(コードは Git)難しい(Gadget は移せない)

18どちらで作るか — 判断フロー

新しく何か作りたい、と言われたら、この 5 問を上から順に。

Q1. 社外の人(顧客・取引先)が使いますか? SyncSync Form の顧客向け機能、公開サイトなど はい プランB いいえ Q2. それが止まると、業務が止まりますか? 受注・請求・出荷・給与に関わるか はい プランB いいえ Q3. 個人情報・機微情報を「ためて持ち続け」ますか? 採用応募者、健康情報、与信情報など はい 情シス判断 → 原則 プランB いいえ Q4. 3 か月後も、同じものを部門で使い続けますか? 定常業務に組み込まれるか はい まず Cloudflare OS で試作 → 定着したら プランB で作り直す いいえ Q5. 上記すべて「いいえ」 = 壊れても業務が止まらず、機微データを持たず、社外に出ない Cloudflare OS 迷ったら Q4 に落とす。「まず 30 分で作ってみて、使われたら作り直す」が最も損が少ない。 Cloudflare OS で作ったものを、そのまま基幹業務に育てないこと。育ったら作り直す、と最初に決めておく。
図 11 — 5 問で決まる。上から順に、1 つでも「はい」が出たらそこで確定

18-1. Q4 の「作って試す → 作り直す」が本命の使い方

これが 2 つを併存させる最大の理由です。

プランB の最大のコストは「作ってみたが使われなかった」ときの損失です。仕様書に 30 分、開発に半日、レビューに 2 分。それが空振りに終わる。

思いつく Cloudflare OS で 30 分で作る 2 週間 使ってみる 使われなかった → 捨てる 損失は 30 分だけ 定着 → プランB で作り直す 仕様は実物で確定済み
図 12 — 「仕様書を書いてから作る」ではなく「動くもので仕様を確定させてから、ちゃんと作る」
副次的な効果

プランB の /service-spec で悩んでいた「何を作りたいのか本人も分かっていない」問題が、ここで解けます。

18-2. 具体例で当てはめる

作りたいもの判定理由
顧客問い合わせの受付台帳(社内・営業 5 名)Cloudflare OS止まっても業務は止まらない。顧客の連絡先は持つので Q3 は情シスに一声
日報の集計ダッシュボードCloudflare OS個人の作業時間。典型的な Cloudflare OS 向き
展示会で配る名刺スキャン集計(3 日だけ)Cloudflare OS使い捨て。プランB でやる価値がない
部内の議事録フォーマット(+ メニューに追加)Cloudflare OS(Formats)まさに設計意図どおり
SyncSync Form の顧客向け機能プランBQ1 で即決
請求データの締め処理プランBQ2 で即決
採用応募者の管理プランBQ3。個人情報を長期保持
社内申請システムプランBQ2・Q4。既存資産もある

19既存アプリをどう置き換えるかエンジニア+業務側

すでに動いているものが 2 通りあります。

この 2 つは動機がまったく違います

(1) は単一障害点を消すための移行。(2) は更新のしやすさだけのための移行です。同じ手順で進めると失敗します。

19-1. 大前提 — 「全部移す」は間違い

動いているものを触るのが、いちばんリスクの高い作業です。移行は「新しい方が良いから」ではなく、いま抱えている具体的な困りごとを消すためにだけやります。行き先は 3 つしかありません。

行き先どういうときに選ぶか
A. 据え置き(移さない)困っていない。または移せない構造的理由がある
B. Cloudflare OS の Gadget にする社内・軽い・自分たちのデータだけ。本人が直したい
C. プランB(Workers + Access)に載せ替える社外公開・基幹・個人情報。レビューの関門が要る

Cloudflare OS へ構造的に移せないもの(18 章の判断フローと同じ理由):

19-2. まず棚卸しする(1 アプリ 1 行)

移行計画の前に、この表を全アプリぶん埋めてください。埋まらない列があること自体が結論になります。

何を書くか
アプリ名 / 現行環境Docker(Mac mini) か Workers か
使う人数 / 使用頻度「月 1 回・1 人」なら移行対象ではない
最終更新日半年以上前なら、要らない可能性が高い
社外公開 / 外部 API 連携あり/なし。API はサービス名を具体的に
データ量 / 個人情報概算 MB・行数/あり・なし
止まると業務が止まるかはい/いいえ
いま直せる人名前。「いない」ならそう書く
移行の前に、本数を減らす

「誰も直せない」「半年以上更新なし」「月 1 回しか使わない」が揃ったら、移行ではなく廃止を検討してください。これがいちばん効く工程です。

19-3. 行き先の決め方

D0. 6 か月以上使われていない? 最終更新日と使用頻度を棚卸し表で見る はい 廃止(移さない) いいえ D1. 社外の人が使う/独自ドメインで出している? Gadget は Access の内側にしか置けない はい プランB のまま据え置き いいえ D2. 止まると業務が止まる/個人情報を持ち続ける? 請求・給与・受発注・採用など はい プランB(必要なら載せ替え) いいえ D3. 外部 API を叩く? 同梱 Gatekeeper で足りる? Chatwork・freee・kintone は同梱されていない 足りない 後回し(自作の工数待ち) 足りる/叩かない D4. 常駐プロセス/重いバッチ/大きいファイル/独自 DB? PostgreSQL・MySQL・画像変換・機械学習など はい プランB または据え置き いいえ D5. 社内・軽い・自分たちのデータだけ = 壊れても業務が止まらない Cloudflare OS の Gadget へ
図 13 — 上から順に。1 つでも当たったらそこで確定し、Gadget にはしない

19-4. (1) Docker / Mac mini からの置き換え

移行の理由は「新しくしたい」ではない

まず、いまの構成の危うさを言葉にしてください。稟議はこの言葉で通します。

順番を間違えない

移行の目的は「この単一障害点を消すこと」です。Cloudflare OS を入れることではありません。

中身ごとの行き先

Docker の中身行き先注意
画面+DB だけの業務アプリ(Rails / Django / Node + PostgreSQL / MySQL)Gadget に作り直す移植ではありません。コードは移さず、現物の画面と項目を見せて作り直す方が速い
定期バッチ・cronCloudflare OS のスケジュール実行、または Workers の Cron TriggersCloudflare OS は「オンデマンド/スケジュール/イベント」での決まった手順の実行を公式に挙げています
ファイル置き場・共有R2 または既存のファイルサーバGadget に持たせない
社内 LAN の機器・NAS を叩く移せない。Tunnel を立てるならプランB既存の Cloudflare Tunnel 移行案件と接続する話になります
重い処理(画像変換・機械学習)Workers / Containers、または Mac mini を残すGadget の枠に入りません

1 アプリあたりの手順

1 現物を触って項目を書き出す コードは読まない 30 分 2 Cloudflare OS で作り直す 9 章の書き方で 30 分〜半日 3 データを移す CSV + 取り込み画面を作らせる 1〜2 時間 4 2 週間の並行運転 現行は読み取り専用新しい方に入力する 2 週間 5 切替 現行は 1 か月読み取りで残す 6 撤去 1 年ぶんをアーカイブ Step 4 の並行運転を飛ばさないこと。新旧の結果が合わないことに、切替後に気づくのが最悪の結末です。 Mac mini 側を止める判断は、新しい方が 1 か月連続で無事故だったあとにする。
図 14 — 1 アプリあたりの手順。1 本目でこの所要時間を実測してから、他の計画を立てる
データ移行の正直なところ

Gadget のデータは Durable Object の SQLite です。一括インポートの公式手段は確認できていません。実務上は「取り込み画面を作ってください」とエージェントに頼み、現行 DB から出した CSV を流し込むことになります。

SQLite ストレージの無料枠は 5GB-月です。これを超える規模なら、そもそも Gadget 向きではありません。

19-5. (2) Cloudflare Workers からの置き換え

こちらは「危うさ」がありません

プランA/B の成果物は、すでに Cloudflare の上で、Access の内側で動いています。単一障害点もなく、鍵の置き場所も整理済みで、レビューの関門もあります。

したがって

移す理由は費用でも安定性でもありません。「更新のしやすさ」だけです。

移す価値がある移さない
本人が直したいのに、毎回エンジニアの PR マージ待ちになっているもの社外公開しているもの
表示や項目の変更依頼が、月に何度も来るもの独自ドメインを当てているもの
作ったが、ほとんど使われていないもの(=廃止候補)D1・R2 を本格的に使っているもの/cron で基幹処理を回しているもの/同梱 Gatekeeper に無い外部 API を叩くもの

移行そのものは軽い

認証(Access)もデータの所在(Cloudflare アカウントの中)も変わりません。変わるのは「誰が直せるか」だけです。手順は 19-4 と同じですが、Step 3 のデータ移行が楽です。D1 なら wrangler d1 execute で CSV を吸い出せます。

リポジトリは消さない

Gadget が定着するまで、旧 Workers 版を読み取り専用で 1 か月動かしておくのが戻り先になります。Blueprint は配布後に自動更新されない(13 章)ので、壊れたときに戻る先を用意しておくことが特に重要です。

定着を確認したらリポジトリをアーカイブします。削除はしない。

19-6. 現行環境 × 行き先のまとめ

現行Cloudflare OS へプランB のまま/へ据え置き・廃止
Docker / Mac mini画面+DB だけの社内業務アプリ社外公開・基幹・重い処理LAN 内機器を叩くもの、使われていないもの
Cloudflare Workers本人が直したいのに待ちが発生しているもの社外公開・独自ドメイン・D1/R2 本格利用・cron 基幹触る理由が無いもの

19-7. 順番 — 一番どうでもいいものから

何を移すか目的
1 本目止まっても誰も困らないもの(社内の小さな台帳など)手順とデータ移行の実測。ここで所要時間を出す
2 本目よく使うが、止まっても半日は平気なもの並行運転の運用を試す
3 本目以降棚卸しで「更新依頼が多い」と出たものここから効果が出る
移さない請求・給与・受発注、社外公開しているもの永久に移さない選択が正解のこともあります

19-8. 置き換えをやめる基準

この 4 つのどれかに当たったら止める
  • 並行運転の 2 週間で、新旧の結果が合わなければ中止。データ移行に欠落があります
  • 1 本目の移行に 3 日以上かかったら、以降を止めて棚卸しからやり直す
  • Gatekeeper の自作が必要だと分かった時点で、その 1 本は後回し(エンジニアの工数が読めるまで)
  • Mac mini 側を止める判断は、新しい方が 1 か月連続で無事故だったあとにする

20導入の順序と、やめる基準

プランB と同じ考え方です。一気に全部やらない。

やること判断ポイント
1 週目方式 A(os.cloudflare.app/deploy)でエンジニアが 1 つ立てて触るUI が日本語か。日本語での指示がまともに通るか
2 週目方式 B(starter)で本番用に建て直す。Access 連携・独自ドメイン・予算上限Access の AUD 連携が通るか。Workers Free で足りないことの確認
3 週目意欲の高い非エンジニア 1 名に、問い合わせ台帳を作ってもらう(サポートなし)30 分で 1 本目が動くか。ここが最重要
4 週目同じ 1 名が Blueprint で 1 名に配る/Chatwork Gatekeeper をエンジニアが書く誤共有が起きないか。Gatekeeper 自作の工数実測
5 週目〜部署内へ展開。判断フロー(18 章)を全員に配るAI 費用の実測値で予算を引き直す
6 週目〜既存アプリの棚卸し(19-2)→ 1 本目の置き換えデータ移行の実所要時間。3 日を超えたら止める
やめる・見直す基準

3 週目の 1 名が、サポートなしで 30 分以内に 1 本目を動かせなければ展開しない。 Cloudflare OS の価値は「速く・大量に」の一点にあります。1 本目に半日かかるならプランB と変わらないので、レビューがある分だけプランB に一本化した方が安全です。

費用の見直し基準

AI 費用が月 $150 を超えたら、モデルの選択肢を絞り直す。上限で止めるのではなく、何にいくら使われているかを見て、安いモデルに寄せる。

21未確認事項(稟議前・展開前に潰すこと)

この章を飛ばさないでください

この資料は一次情報に基づいていますが、以下は公式ドキュメントに記載が無く、確認できていません。実機で確認してから展開してください。

#未確認の項目何が困るかいつ潰すか
1Workers Paid が必須かどうかの明記がないFree 前提で稟議を通すと後で詰む1 週目(Free で立ててみて詰まるか見る)
2製品 UI が日本語化されているか(プレスリリースの「日本語対応」がリリース文の翻訳を指すのか UI を指すのか不明)非エンジニアが英語画面では回らない1 週目。最優先
3日本語プロンプトの品質「◯◯を作って」が期待どおり通るか1 週目
4データ所在地・リージョン制御の可否顧客データを扱う判断ができない2 週目(情シス判断の前提)
5GA かベータかの公式表明がない(early-access とは書かれている)本番依存の可否「本番の基幹業務には載せない」で回避
6エージェントの自動テスト/自動デバッグの実挙動一次情報に記載なし。期待しすぎない3 週目に実測
7監査ログの物理的な保存先と保持期間監査対応の設計ができない2 週目
8os.cloudflare.app/deploy の実際の画面手順JS 描画のため事前確認不可1 週目に実物を見る
9Gadget のバックアップ・書き出し手段Cloudflare OS をやめるときに困る2 週目
10Chatwork Gatekeeper の実装工数日本の SaaS 連携が全部これ次第4 週目に 1 本書いて実測
11AI Gateway に送るメタデータにユーザー識別子が含まれるか含まれないとユーザー別の Spend Limit が張れない(10 章)2 週目
12Gadget 1 本あたりの実トークン量AI 予算の根拠が作れない3 週目に実測
13Gadget への一括データインポート手段既存アプリの置き換え(19 章)でデータを移せない1 本目の移行時に実測
14Gadget から R2 や外部ストレージを使えるかファイルを扱うアプリを移せるか判断できない2 週目
15Gadget のスケジュール実行の実挙動Docker の cron を置き換えられるか判断できない2 週目
とくに #2

これが英語のみなら、本資料の前提(非エンジニアが自力で回す)が崩れます。1 週目に必ず確認してください。

22参考(一次情報)